街の片隅で…・7章

 

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7

 

光……

さとみは大きな音と共に射し込んできた光に、薄く目を開いて思った。それは太陽が直接目の中に飛び込んできたような、激しい痛みを伴う光だった。

何日ぶりだろう……

手で顔を覆うことなく彼女は目を開いていた。どんなに痛くても、目がどうにかなろうとも見ていたかった。感じていたかった。なぜならば、その光が娘を救う道であることは、ほとんど思考できなくなった彼女にも容易に理解できたからだ。いずれにせよ、もうたいして視界も利かない。手を顔の前に持ってくる力も残ってはいないのだ。そんなことは、もうどうでも良いように感じられた。

 

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「大丈夫か!」

捜索隊の一人がそう声を掛け、中に入って来た。若い男だった。

「母親は! 子供はどうだ?」

違う声が言った。こちらは年配のようだ。少し投げやりな感じに聞こえた。

「子供は……これだけ経った後じゃなあ……」

外から覗き込みながら憐れむような声で言う。麻衣が状況の変化にも関わらず、ピクリとも動かなかったからだ。

「母親はまだ息がある。子供は……いや! 生きてる! 眠ってるだけだ! 生きてるぞ!」

麻衣を抱き起こしたその若い男は、驚きながら嬉しそうに叫んだ。

「ほ、ほんとか! 早く! 早くこっちへ!」

外の男の声にも活気が戻る。日数が経っているだけに諦めかけていたのだ。男は麻衣を受け取ると、すぐに処置を施し始めた。

 

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「しかし……どうやって生きていたんだ。水も食料もなしで……」

処置を終え、麻衣を別の人間に救急車まで運ばせたその男は不思議そうに呟き、続いて担ぎ出されてくるさとみに目を移した。

「ん? 足、折ってるのか?」

「ええ。そのようです」

答え、その若い方の男はゆっくりとさとみを担架に乗せた。

「他は?」

「……ん? あっ! これを!」

負傷個所を調べていたその男は、急に何かに気付き、さとみの手を取り叫んだ。

「なっ……なんてことを……」

年配の方もすぐに気付いて顔をしかめた。

2人は茫然として、しばらく動作を失っていた。持ち上げられたさとみの手が、使い古された雑巾のようにぼろぼろになっていたからだ。それが擦り傷などではなく、噛み破られたものであることは一目見れば分かった。

「マコト……」

聞き取れぬほどの小さな声で彼女が呟いた。もう虫の息だった。

さとみは自分の両方の手を交互に噛んで血を出し、それを麻衣に与え続けたのだった。しまいには噛み切るところがなくなり、同じ個所を何度も何度も噛み破って……。

「こんな……こんな方法を考えつくなんて……母親というものは、何という……」

何度も様々な救助活動に携わり、とうの昔に、そういった感情は麻痺しているはずの男の頬に熱いものが伝わっていた。

「……」

若い方の男の目にも涙が光っていた。内から溢れ出るものを抑えることができないようだった。

マコト……麻衣は大丈夫よ。ちゃんと守ったからね……。もういいでしょ? もう頑張らなくても……許してくれるわね……そっちへ行っても……

さとみはゆっくりと目を閉じた。その顔がかすかに微笑んだように見えた。

「ん……お、おい! しっかりしろ!」

男は、彼女の微妙な変化を感じ取り叫んだ。若い方の男も叫ぶ。

また暗くなってきた……でも、今度は怖くはないわ……

「しっかりしろ! 死ぬんじゃない! もうちょっとじゃないか……生きるんだ!」

薄れ行く意識の中で、彼らの叫ぶ声だけが響く。が、それも次第に遠のいてゆく。

あなたのところへ……

そしてさとみは運ばれる担架の上で、静かに息を引き取った。

魔女の一撃から、11日目のことだった。

 

 

 

 

 

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