迷える神々・8章②

 

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「涼。そろそろ行きましょう」

理恵がそう言い、立ち上がった。

「ああ」

涼がそれに続く。

「ヨッシャー!」

早乙女も気合を入れながら元気よく立ち上がった。が、当然の疑問にぶち当たる。

「あ……でもどこ行くの?」

その問いに理恵が彼をちらっと見て、また視線を海に戻した。

「あそこよ」

水平線の方向を指差している。

「あそこって? 何かある?」

示す方向に何も認められず、早乙女はキョロキョロした。

「分からないわ。でも」

「ああ。あっちだ。俺もそう思う」

「う~ん……。おまえたちの言う故郷がか? 俺にはまだよく分からん。それにどうやって……あっ」

早乙女が気付くと、涼と理恵はもう海面を歩き始めていた。地面と同じようにスタスタと進んで行く。

 

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「な、なんちゅう奴らだ。お、おい! 待ってくれよ! 置いてかないでくれ!」

その声に二人は立ち止まり、振り返った。

「早く来いよ」

「俺、泳げないんだよ」

「誰が泳げって言った。歩けば良いだろ」

「んな、無茶言うなよ」

「仕方がないなぁ……」

溜め息を付き、涼は念動で早乙女を持ち上げた。そのまま自分たちの所まで運ぶ。

「わっ……すげえな、おまえ」

「あんたも、やろうとと思えばできるはずだ」

「そうかなァ……」

水面ぎりぎりのところを浮遊させてもらいながら、早乙女は二人と並んで進んで行く。見習って彼も足踏みをしていた。そうしないと波に足が引っ掛かるのだ。




「昔、ほんとに何もなかったか? もの動かしたとか、何か」

「う~ん……何かねえ……やたらとギャンブルでツイてた時はあったけど、一年間ぐらい。その間は他のことでも勘が冴えてたなァ……」

「プレ・コグニションね」

理恵が言う。

「へっ?」

「予知能力のことだよ。歳食ってた分だけ概念が固まってて、ちょっと弱かったようだけど。あんたはそれがまず初めに出たんだ。俺は念動・サイコキネシス、理恵はクレヤボヤンス・透視。でも、今は何でもできる。みな同じなんだ」

「う~ん……」

「あなたにもできるのよ、何でも。できるとさえ思えば。現にテレポートできたでしょ? あれは私たちの力で運んだんじゃないわ。自分で来たのよ」

「でも、あの時は何も考えてなかったから」

「そう。今もそうすれば良いの。当たり前のことだと思って、海の上だなんて忘れちゃえば良いのよ。私たちが簡単に歩いてるの見たら、なあんだって感じで、できそうでしょ?」

「う~ん……」

「もう……。持ち上げてんの疲れんだから、下すぞ!」

涼が痺れを切らして怒鳴った。

「わ、分かった! でも、ちょっと時間をくれ。 ……大丈夫。俺は歩けるんだ。当たり前のことなんだ。大丈夫……」

早乙女は目を瞑り。必死になって自分に暗示をかけ始めた。

「!」

涼はそれを横目で見ていて何かに気付き、少し驚いたような表情を見せてから、理恵の方を向いた。

理恵も黙って頷く。



二人はこの時初めて早乙女に、かなり強い《気》を感じたのだった。

「大丈夫。俺はエスパーなんだ。強いんだ。誰にも負けないんだ。歩ける。地面と同じなんだ。大丈夫……」

目を瞑ったまま、いつまでもブツブツ言っている彼を見て、二人がクスクス笑い出す。

「ん? なんだ?」

早乙女が目を開ける。

「い、いいや」

「ううん。なんにも」

二人はそう言いながら、また笑った。

「変な奴ら……」

首を傾げる。が、気を取り直して目を瞑り、早乙女はまた暗示を続けようとした。

「もう良いって。大丈夫だから」

涼が早乙女の肩を叩いて言う。

「何だよ……せっかく努力してるのに」

「だから、もう大丈夫だって」

にやにやしている。

「何が?」

早乙女は言っている意味が分からず、理恵の方に尋ねるような視線を向けた。

「うふふっ……涼ね、力、もう使ってないの」

「ナ、ナニィ―!」

彼は素っ頓狂な声を出して自分の足元を見、目をむいたまま顔を上げた。

「おまえ、やってないの?」

「ああ。やってない」

「じゃあ……」

「そっ。自部で歩いてんの」

「ああ……」

情けない声を上げ、早乙女が急に沈んだ。

「あっ! もう……」

涼が理恵を見て首を振る。

「早く助けてあげなさいよ」

笑いを堪えながら理恵がたしなめた。

「ああ」

面倒臭そうに涼が早乙女を引き上げようとした瞬間、空から円筒形の光が海面に放射された。

「!」

驚いて頭上を振り仰いだ二人が目にしたものは、中空に停止しているアダムスキー型のUFOだった。

早乙女が光の中をゆっくりと上がってくる。

そのまま船内に吸い込まれて行く。

「理恵」

「うん」

二人は顔を見合わせると、自分たちも自ら光の中に入った。

 

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